洋上只中ではポジションが命~「羅針盤」の発明と「短波」

コンパス

次は、ヘッディング、船首の方向です。海流と風にも流されますから、相対速度しかわかりません。
絶対速度は、陸が見えない洋上では、天測(天体と六分儀による測距方法)からしか得ることは不可能です。
ですから、時刻は職人の技による複数の機械式時計の平均値でした。

コンパス

長距離航行移動体にとって、ポジション把握は生命線です。古くは、これを得るために勉強し訓練しました。だからパイロット(船乗りを含む)は尊敬されるのです。

永久磁石の性質が発見されて「羅針盤」が発明されました。革命的出来事だったでしょう。
この羅針盤で磁軸点が判ります。地軸とはずれていますが、変化はほとんどないのでこれで構いません。

磁軸と地軸のズレは、近年まで、それを補正するための情報が放送されていました。
私が現役の若い通信士であった頃、定時放送される「ウルシグラム」と言う短波モールス信号放送を受信していました。
この放送は地球の状態を実況していたのです。
なんてグローバルなんだ! あわせて、短波通信に必要不可欠な情報として、太陽の黒点の数「SSN(サン・スポットナンバー)」も放送していたんですよ。

あと、航海に必要なものは、国家の財産であるチャート(海図)です。これがあればポジションを知ることができます。
海図があれば位置、時刻一つ不明であれば、海図ともう一方から方程式と作図で不明要素を割り出せるのです。

ここで、読んでほしい本があります。若い頃、涙して読んだ記憶があります。
無料図書館サイトの「青空文庫」で無料で落とせます。須川邦彦著「無人島に生きる16人」です。実話の日本人漂流記です。一部引用します。

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午後三時四十分、両船の距離は八百メートルとなった。本船は、帆柱に万国信号旗をあげて、汽船に信号した。
「汝(なんじ)の経緯を示せ」
汽船は、わが信号に応こたえて、多くの信号旗をあげた。
その信号旗の意味をつづると、「西経百六十五度、北緯二十五度」
これで、本船のたしかな位置がわかった。
「汝に謝す」
お礼の信号をすると、
「愉快なる航海を祈る」

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出典:青空文庫 須川邦彦著「無人島に生きる16人」http://www.aozora.gr.jp/cards/001120/files/42767_15618.html

知っていただきたかったのは、「大海原で本当に必要なもの」です。

私が若者であった近年でさえ、「短波(HF。3Mhz~30Mhz)」による通信が命の綱であったのです。
この通信さえできれば、位置を得ることができたのです。
この電波がいかに通りやすいかは、重大な意味のある情報で、それが短波帯電波の反射伝番に大きく影響する地球電離層の厚さを決める太陽の黒点だったのです。
電波の実用が始まる前は、視覚による直接通信の旗流信号だったし、ロープの結び目だったのです。

発祥が軍事目的であったにせよ、電波航法測位システムは安全なる航海に大貢献しました。この時代も、まもなく終わろうとしています。